サロン・デル・マンガ スペシャル!
連載「漫画 × バンド・デシネ!」では、2017年に急逝した谷口ジローのバルセロナ展について毎週取り上げている。今回紹介する『晴れゆく空(Cielos radiantes)』は、2005年に制作された珠玉のヒューマンドラマだ。
主人公の久保田和広は憂鬱な日々を送る、しがない42歳のサラリーマン。車を運転中に、17歳の高校生・小野寺卓也の乗る単車と正面衝突を起こし、死亡する。しかしその際に、事故相手の小野寺が正気に戻るまでの間限定で、魂だけ乗り移る。死ぬに死にきれない久保田は家族に会いに行くが、高校生の姿をした男を妻と娘は信じようとはしない──。
現実の世界で死去した場合、故人について語るのは当然ながら残された遺族だ。死人に口無し……だが、絶命してから話したいことがあったら人はどんな言葉を発するのか、そしてどのような心境なのか。漫画というバーチャルな世界で谷口が描こうとしているのは、実世界での親愛なる人との究極のふれあいだ。
作品のストーリー展開は、淡々としたもので、この普遍的なテーマをあえて飾り付けることなく描いており、今を生きる私たちへ、静かながら実に大切なメッセージを訴えかけている。
<連載第45回はこちら>
【漫画 × バンド・デシネ!】その㊺ 谷口ジロー「バルセロナ展」:『犬を飼う』
© Jirō Taniguchi
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