八月吉日、夏が終わりを告げ新たな季節を予感させるこの日、純文学樂團『KATARI』は都内某所にて初の単独ライブを、会場及び配信含め約8,000人以上の観劇者を前に実施した。
現実と非現実が相俟ったかのような、虚ろな空間でKATARIはその言の葉を奏で、語り、騙った。
記念すべき初の単独ライブ。地下へと続く階段を抜け、会場に入ると、そこにはアンティークな椅子と小さな机、そこにポツンと佇む二灯の電球。そして、その傍らにはこれまでKATARIの音楽を作り続けたであろう演奏機器。此処から全てが始まるんだと、感慨深く思った観劇者も少なくはないだろう。
コロナ時勢を鑑みて会場は少人数収容となってはいるが、配信でも視聴を実施しており、SNSなどを見ても沢山のKATARIファンが今回のライブに注目しているのは十分に感じることができた。
そして、開幕。
幻想的な音楽と共に、黒を貴重とした何処か流浪の民を感じさせられる衣装で登場するKATARI。
細やかな衣装に差し色装飾のひとつひとつからもこだわりを感じる。
卓上に二つの灯がつき、間宮氏からの心臓に直接訴えかけるような重低音とともに、神尾氏が語り始める。KATARIの始まりの曲にして、全てはここから始まった。「朔に」だ。会場は一層の没入感を高め、観劇者は皆その姿、音、そして言の葉に見入っていった。
「朔に」が終わるとそのまま曲は流れるように次の楽曲へ。純文学樂團たる所以を世に知らしめた第一弾となる楽曲「山羊の歌」だ。中原中也氏著による本作、語り人となる神尾氏が時には若人、老人へと声色を変えその心情を語る。また原曲とは違うトラックアレンジがされており、サビ部分においてはハイトーンボイスで混ざり合う間宮氏の声が心の隙間にするりするりと入り込み、自分もその時代の傍観者となったかのような錯覚を覚える。
続いては、透明感のあるポップな音色から与謝野晶子氏著による「夢と現実」。誰も知り得ぬ日々に一喜一憂しながらも、それでも尚、明日への「何か」に自身の生きる理由を見出す一人の女性の人生を神尾氏が言葉を紡ぎ、語りきった。まるで感情を包み込んでくるような言葉と音色をきっかけにKATARIを知ったファンも少なくはないだろう。
その後、暗転を経て舞台は急展開を迎える。
荘厳悲哀、しかし神秘性すら覚える音と共に神尾氏の語りが始まる。
そう、感情を強引にもっていかれると言わしめたことで定評のある衝撃的な楽曲「HUMAN LOST・かくめい」だ。太宰治氏著による本作は、重々しくも痛々しい、ただただ心が堕ちて狂ってしまうかのような倒錯感を覚える。間宮氏の歌声が感情の一つ一つ掻き乱し、絶望と狂気さをより増長させ、神尾氏が言の葉を堕とし、場内を掌握した。
掌握は未だ止まらない、畳み掛けるように楽曲は続く。高見順氏著「死の淵より」。朗らか口調から淡々と無機質となっていく語りと不安で追い込まれるような旋律、死者の爪がのびるとはまさにこの事を言うのだろうか。一歩一歩、現世の淵へと追い込まれるにつれ、抑え込んでいた感情が瓦解するかのような神尾氏の表現は舌筆に尽くしがたい。そして最後に鎮魂と救済を謳うかのような間宮氏の歌声も印象的であった。
静寂の後、闇を照らすかのような音色が聴こえる。立原道造氏著による「暁と夕の詩」だ。夢と現実を行き来するような本作の内容は、まさに観劇している我々のようで、幾度も読み返す物語の夢。ずっと見ていたいと思える印象とともに、迎えなければならない明日がきてしまうかのような物寂しさと共に全楽曲を語り終えた
全楽曲を語り終え、公演も終わりかと思いきや、降り続く雨の音とピアノの旋律が会場をまた別の時代、世界へと誘う。宮沢賢治氏「雨ニモマケズ」だ。
本作は本公演にて本邦初公開となる新曲。KATARIが結成され一番初めに制作された処女作であり、最も思い入れも強い作品だ。荒削りで、軽快だがどこか少し物寂しい間宮氏の歌声と、神尾氏の語る言葉のそこはかとない凄みに、我々は未だ知らなかったKATARIの原点に触れることができたと思う。
メロウな音楽とともに公演は終焉を告げる。「晦にて」。様々な時代、世界での観測者であり、傍観者となるKATARIが最後に見せてくれたパフォーマンスは、これからの幕開けもまた予感させるKATARIとは何者なのかを知らしめるに相応しい内容となった。
公演後は出展情報やグッズ情報などの発表もあり、これからの展開も明らかとなった。今後の活躍からますます目が離せない。
【セットリスト】
00:朔に
01:山羊の歌
02:夢と現実
03:HUMAN LOST・かくめい
04:死の淵より
05:暁と夕の詩
06:雨ニモマケズ
07:晦にて
<特報1>
10月31日(日)東京流通センター(TRC)にて実施
音楽・メディアミックス同人即売会
「M3-2021 秋」
<特報2>
KATARI初のアルバム
『KATARI第一集「開架」』
10月31日(日)「M3-2021 秋」にて先行リリース決定
<特報3>
KATARI 独奏会
『嚆矢』
KATARIメンバーが使用した公演台本を
忠実に再現したサイン入りレプリカ台本を
限定100冊にて発売決定!!
販売はBOOTHにて、
※詳細は後日発表。
<特報4>
KATARIオフィシャルグッズ発売決定。
Tシャツ、マフラータオル、サコッシュの
計3商品をBOOTHにて販売。
※詳細は後日発表。
■純文学樂団「KATARI」とは
人の心の核心を憑く音『純文学×朗読×Lo-fi Music』を融合させた純文学の新たな可能性を 築きつつある新進気鋭のアーティスト、純文学樂團「KATARI」。 神尾晋一郎扮する語り手は各純文学作品内の傍観者、時には作者自身に扮し、その人人の人生を言の葉をなぞり、間宮丈裕はその言の葉に旋律を乗せ、調べを騙る。「KATARI」は中原中也、与謝野晶子、宮沢賢治など著名純文学者を題材とした楽曲を SNS 中心に公開しており、楽曲を発表、配信するたびに多くのファンの心は「KATARI」の世界に没入している。その影響範囲は既に海外のメディアまで注目するほどに波及している。今後の展開にも是非とも注目してほしい。
■「KATARI」メンバー
神尾晋一郎
北海道出身。声優・俳優・ナレーター・DJ として幅広く活動。2019 年、第13 回声優アワー ドにて、『ヒプノシスマイク』として歌唱賞を受賞。主な出演作に『あんさんぶるスターズ!』 (鬼龍紅郎)、『ヒプノシスマイク』(毒島メイソン理鶯)、『世界はほしいモノにあふれてる』 (ナレーション)、『にほんごであそぼ』(マジ・しゃんいちろう)などがある。
間宮丈裕
茨城県出身。サウンドクリエイター「ゆよゆっぺ」として活動している。バンド「Naked Identity Created by King」のメンバー。「DJ’TEKINA // SOMETHING」名義で DJ としても活動 もしている。DJ としては ROCK IN JAPAN FESTIVAL 、SUMMER SONIC にも出演し、多数のアーティスト楽曲制作を担当している。
COMMENT コメント