15回にわたり集中連載した「第35回バルセロナ国際コミックフェア」。訪れた会場のあるスペインで、人々は驚くほど多くの日本のマンガに親しんでいた。スペインの本屋で実際に見つけた日本のマンガを紹介していくこの連載第18回目は、つげ義春の『無能の人(El hombre sin talento)』について取り上げる。
主人公の助川は漫画家であり、決して無能ではない。ここでいう「無能」とは、資本主義社会で生きてゆくために必要なおカネを稼ぐことに向かない、ということなのだ。クリエイターは大いにその傾向にある。
また、助川には作者自身の特徴が随所に見受けられる。作者は名家の生まれながら、父の死をきっかけに転落し、戦中戦後に四苦八苦した少年時代を過ごした。極度の人見知りで社会にはなじめず、自分の創造世界に引きこもり、漫画家デビューを果たした。
南国で楽天的なスペインでは、お金を稼ぐことにあまり興味がなく、行楽に興じて人生を全うすることがよしとされる。本作は、そのラテン系の精神を地で行くものだ。
作者同様に職人気質で、「笑いながら怒る人」などの持ちネタがある竹中直人の監督・主演で映画化されたのが1991年。「痛い笑い」や原作のシュールな世界が実写で忠実に再現されており、ファンなら興奮を抑えられない出来栄えだ。
<連載第17回はこちら>
【スペインで見つけた日本のマンガ】その⑰ 花咲アキラの『美味しんぼ』
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