「バンド・デシネ」連載第16回目は、フマルジャン・サトラピの『ペルセポリス (Persepolis)』について取り上げる。
作者はカージャール朝王家の血を引き継ぎ、幼少期に世俗的な社会から厳格なイスラム主義への転換が起こったイラン革命、そして100万人が命を落としたイラン・イラク戦争を経験している。全く価値観の異なる欧州での留学で退廃的な生活に浸り、帰国後は離婚。このような紆余曲折を経てフランスでイラストを学び、バンド・デジネ作品を生むことになるのだが、この激動の人生を自叙伝的に描いた物語が面白くないはずがない。
『ペルセポリス I イランの少女マルジ』では、6歳から14歳の多感な時期を描く。突然、通学している学校が男女別学となり、ヴェールの着用を強制させられる。さらに友人を空爆で亡くし、叔父も拷問死する。
『ペルセポリス II マルジ、故郷に帰る』では、14歳になった主人公がウィーンで一人暮らしをするが、タガが外れてしまい、自由を謳歌した結果堕落しきってしまう。そして、決心を固め、再び祖国の地を踏む。
子どもの本音とブラックユーモア溢れる作風は、報道などからはなかなか伝わってこない、等身大のイランの風景を描写する。ちょっとスネた感じの少女は、世の中を取り巻く政治や思想を超越し、人間として読者に共感をもたらす。作者のマルジャンは同作品のアニメ映画の監督も務め、いたるところに、こだわりを見せている。
これは、中沢啓治が実体験を元に子供の目線で描いた『はだしのゲン』にも通じる部分がある。読み終える頃には、日々の憂鬱や苦労がものすごく些細なことに思え、世の中が全く違って見えてくるはずだ。
<連載第15回はこちら>
【漫画 × バンド・デシネ!】その⑮ フアンホ・ガルニドの『ブラックサッド』
(C) Marjane Satrapi
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